2012年ルルーシュ4回忌、ゼロレク記念としてピクシブにアップしてスパークでもペーパーとして配ったものです。










 雨 と 夢 の あとに











雨が壁を叩く音が耳に響く。


「生まれ変わったら、絶対に君に会いに行くよ」

シャワーを浴びて窓の外を眺めていると、スザクがいつの間にやら背後に立っていた。
「なんだ突然」
振り返りもせず、その声に応える。
「今度こそ、君を守る」

『 何度 生まれ変わっても ― 』

目の前で亡くした少女の言葉が蘇る。
己の罪を全て知ったうえで好きだと伝えてくれた。
珍しいほど純粋な心を持つ少女。そんな風に想われる価値などありはしないというのに。
だから嬉しいと思う前に切ないと思った。できるならば素敵な人と素敵なときを過ごせ
る普通の人生を送って欲しいと。それは彼女に限ったことではない。自分を閉じ込める
ように窓に手をついている彼であってもだ。
「俺に関わってもいいことなんてない。今度こそ人並の…っ」
言葉の途中でルルーシュは目の前にあった腕に抱きしめられた。
「僕が君を幸せにする。でなければ僕は幸せにならない」
君に関われない人生なんて、と苦しげに吐き出される声に胸が締めつけられる。
「そんな未来を信じたっていいだろう?」
ルルーシュたちのつくる世界は、明日を望む希望を持つ世界だ。
信じることに否定はできない。
「そうだな」
これから自身の存在を失くしゼロとして生きて行かなければならない彼が未来を信じて生
きてくれるのならばなんでもいいかと投げやり気味に思った。
もしもそんな未来があったならば、幸せに違いない。
スザクに守られて、ナナリーを守って、できれば生徒会の皆がいて笑い合って。
いつの間にか想像してしまっている自分に苦笑しながら、しとしとと雨音のする窓を見た。

(もうすぐ止むだろうな)

強く回された腕の中、そんなことを思いながら。


     *


『…―君に会いに行くよ』
「また、か…」
目を覚まして脳裏にぼんやりと残る夢の断片。いつしか見るようになった誰かに呼ばれてい
るような夢。
誰かに言われたことがあったのか、ただの夢なのかわからない。しかしその声はずっと前か
ら知っているような懐かしさを覚えるのだった。

誰の声なのだろう?
それがわからずに心に空洞ができたままずっと過ごしている。

「行ってきます」
誰もいない家に呟いて学校へ向かう。
両親は海外出張が多く家にいることが少ないし、妹と弟は部活の朝練でとうに出発していた。
あまり会えないとは言っても仕事を続け家族を支えてくれている親のことは尊敬していたし
愛している。妹は素直で明るいし弟は良く懐いて甘えてくれるいい子たちで、溺愛している
と言っていいだろう。学校でだって友人は少ないけれど、生徒会に入り信頼しあえる仲間も
できた。満たされていると思った。
けれど、何かが足りないと訴える、この気持ちはなんなのだろう?
(晴れたな)
昨日まで数日続いていた雨は綺麗に止んで、目の前には真っ青な空。雨は嫌いだが雨上がり
の少し湿った空気は好きだった。


「今日転入生がくるらしいぜ」
挨拶もそこそこに嬉々としてルルーシュに声を掛ける情報通なクラスメート。
「へえ」
もうちょっとリアクションしろよ、と不満そうではあるが本気で言っているわけではない。
軽そうに見える彼はなかなかに人を見ていて、ルルーシュの性格も把握しているのだ。ルル
ーシュが浮いた話に興味がないことは百も承知だろう。
かくして教師が転入生を紹介すると言ったことで教室全体が騒がしくなった。
転入生くらいで、と周りの生徒を冷めた気持ちで見る。欠伸をしながらどうせ自分には関係
ないし寝てやろうかと思った瞬間、ときが止まったかと思った。

「枢木スザクです」

夢の中の声が頭に響く。目線が動かせず、ぴくりとも動けない。
世界に自分と目の前の少年しかいないような錯覚に陥るほどの静寂が広がった。
ニコリ。目が合った瞬間に、焦がれていたもの正体を知る。
こんなにも胸が熱くなる想いがあったなんて―…。
目の前が霞んでくる中、ぼやけた視界に映る少年が口を動かす。

” 君に会いに来たよ ”

―ああ―…


 貴方を ずっと 待っていた 。

 

 


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