1期25話後に妄想した話
全てが崩落した瓦礫の上、同じ等身の二つのシルエットが並んでいる。
辺りは静寂に包まれており、壁の間をすり抜ける風の音だけが聞こえていた。
「二人だけになっちゃったね」
「そうだな」
並んだ二人は落ち着いた表情でただ目の前の光景を見つめる。
「でもお前はもうすぐ一人になるな」
風邪で広がる黒髪を押さえながら当然のように言うルルーシュにスザクはきょとん、とした。
「どうして?」
翡翠の瞳がルルーシュに向く。目を丸くして尋ねられた言葉に今度はルルーシュが不思議がった。
「おかしなことを訊くな。お前は殺したいだろう、俺を」
ルルーシュも隣に一瞬視線をやるがすぐに戻してしまう。
「…どうかな」
「何」
肯定でも否定でもない、しかし意思の力が見える声で言うと、反射的にルルーシュはスザクを見た。
視線が合ったスザクは眉尻を下げ困ったように笑う。
「わからなくなっちゃった」
自嘲するようなスザクに、ルルーシュは茫然とスザクを見つめるしかできないでいた。
「僕がバカだからかな。どう思う?ルルーシュ」
「…俺に訊くことじゃないだろう」
スザクの真意が見えないで、もっともな相槌をうつと「そうだね」とあっさり返事がくる。
「だからさ」
そ、と割れものに触るかのような繊細さでルルーシュの手に触れる。
突然のことに反応できない彼の掌をさらに握りしめた。
「っ…」
「わからないから、わかるまで生きててくれないかな?ルルーシュ」
その言葉に眉間にしわを寄せ身を離そうとする。しかしスザクはそれを許すまいと掌に力を入れた。
「我侭なやつだな。身勝手にもほどがある。あれだけ憎んでいた俺を、一人になるとわかると殺せないなんて」
自分との力の差を嫌というほど熟知しているルルーシュは無駄だと悟り、抵抗をやめる。
悔しさからか視線は落ち、突き放す言葉を向けた。
「だってわからないんだ。君の事確かに憎んでたはずなのに、殺したかったのに、今こうして隣に立っていても、何も感じない。いや、どっちかっていうと落ち着く」
自分の言葉の意味を自覚していないのか、薄く笑いながら話すスザクに呆れながらも頬に少し熱を感じるのを気付かないふりをする。
「愚かだな、お前は。すぐ目先のことだけに捕われる。自分のルール…正義を守るんじゃないのか」
わざとスザクの言葉を跳ね返すようなことを投げつける。そうでもしないとルルーシュ自身、向けられたものを甘受してしまいそうだったから。
ルルーシュの一見冷たい返事は予想していたのか気にしない様子で、ふっきれた表情に変わり続ける。
「そんなことはどうだっていいんだよ。神だってもう、いないんだから…」
神も世界も―自分たち以外のものは全て破壊してしまった。いや、破壊というのかもわからない、全て消えた。ただわかるのは、今この瞬間お互いしか存在しないということだけ。
「…そうだな。…じゃあお前が答えを見つけるまで、側にいてやる」
諦めに近い声色で返事をすると顔を上げ、翡翠の瞳を捕える。その中には、世界で一番の愚か者が映っていた。
「うん、そうして」
優しく微笑み、白くて女性のような掌を今一度握りしめると、同じ反応が返ってくる。
―罪も罰も、過去も世界のルールも、もう彼らには関係がなかった。
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