パラレルでシックに誕生日。
Happy Birthday Dear Lelouch !
















「誕生日おめでとう」

カレンダーに向かって一人呟くと気持ち悪いなと笑ってジャケットを羽織った。 玄関のドアを開くと冷え込んだ空気が僕を包む。

 駅近くの繁華街はもうすっかりクリスマスのイルミネーションが整っていて、行き交う人も浮き足立っているように見える。
 だけど今日は僕にとってクリスマスよりも大事な一日だ。

―ねえ、不思議だねルルーシュ。君と一緒にいたときより僕は君のことを考えるようになった。馬鹿だね僕は。


     *


 僕とルルーシュは高校三年生のときだけ付き合っていた。
 入学当初、出逢い掛けのときは正反対の性質にぶつかり合いもした。だけどなぜか同じときを過ごすことが多くなり、自然に惹かれあった。
 二人でいれば楽しくて心地よくて落ち着いた。いつしかそれが当たり前になっていた僕は、現状に甘えてしまったんだ。
『ごめんルルーシュ!今日駄目になっちゃったんだ!』
『え?』
その日は授業もある日で、放課後は一緒に過ごす約束をしていた。けれども僕はその約束が反故になることを、手を合わせて謝っていた。
『藤堂さんのところで集まりがあってさ。最後の納会?みたいな感じで…』
部活はやっていないが道場に通っていた僕は、師範である藤堂さんに親以上にお世話になっていた。同じ道場に通う人たちも同様だ。だから集会などには必ず参加して日頃の気持ちを伝えるようにしている。
 今回は本当に急でありルルーシュとの先約もあったがルルーシュとはいつでも遊べる、という甘い考えで僕はその誘いにのった。
『…どうしても、駄目か?』
『そうだね、できれば…』
こういうときルルーシュは必ず許してくれて、困ったように笑って送り出してくれていた。でも今回は引き止める言い方をしたことがひっかかって言葉を濁す。
『…わかった。楽しんで来いよ』
俯き小さくなった声に罪悪感があれど、許されたことに安堵した。
『うん。ごめんね』
最期に付け足すように謝って教室を出て行く。

『行かせちゃってよかったの?』
『いいんだ。スザクは知らないからしょうがない』
なんていう会話が背後であったことも知らずに。

 それからルルーシュは僕にそっけなくなった。何故だろうと思っていた矢先に知ったのだ。あの日がルルーシュの誕生日だったことを。
 冷たくされていた理由がそれだったのだと分かった僕は自分の非を棚に上げてルルーシュに言い放った。
『言ってくれればよかったのに』
『…そういうのは自分から言うものじゃないだろう』
『だって言わなくちゃわからないじゃないか』
『去年は生徒会でやっただろ。忘れていたのはお前だ』
『忘れてたのは悪かったけどさ、でも…』
『忘れるというのはそれほど想いがないんじゃないのか』
『はあ?』
『忘れるってことはお前にとってその程度だったってことだ』
『ちょっと待ってよ。僕が君のこと想ってないみたいじゃないか』
『その通りだろ』
刺々しい言葉でちくちくと僕を刺す。そうして何故かカチンときてしまった僕は言いたくもないことを吐いてしまった。
『誕生日くらいで女々しいな』
ヤバい、と思った時には遅くルルーシュの表情は冷たく貼り付けたようなものになっていた。
『女々しくて悪かったな。…女々しいのがおかしくない女子とでも付き合えばいいんじゃないのか』
『え、ちょっと、ルルーシュ…!』
それから僕がルルーシュに声を掛けようにもはぐらかされ、受験やなんだと忙しく何もできないまま高校生活が終わって。
本当にくだらなくて馬鹿馬鹿しいただの喧嘩だ。けれども僕らはそれが原因で所詮自然消滅というものをしたのだった。

ルルーシュが僕を避けていたのは、怒りからじゃない寂しさからだと気づいたのは約半年後の自分の誕生日だった。


     *


「一万二千円になります」
店員が品物の値段を告げる。そして店員がそれを店のロゴが入っただけの味気ない袋へしまう前に言う。
「包装お願いします」
「かしこまりました。クリスマス用でよろしいでしょうか?」
「いえ、通常ので…」
クリスマス用になんてされたらたまらない。これは別の意味を持つものなのだから。
「はい。では出来ましたら声を掛けますので店内でお待ち下さい」
会計を済ませた僕は店員に言われた通り先程うろついた店内に再び足を戻した。
我ながら馬鹿なことをしているとは思う。だけど止められなかった。可能性や奇跡を信じていたわけじゃない。これは懺悔と…ただの未練だ。
感慨にふけりながらぼうっとしていたのが悪いのだろう。人にぶつかってしまった。
「あ、すみません…」
「いえ…」
視線を上げるとお互い相手を認めて目を見開く。
「ル、ルーシュ…?」
「スザクか…?」
確認せずともわかっている、夢に見続けるその人が目の前にいた。
「久し振り、だな」
ルルーシュも突然のことに動揺しているのだろう。けれどもそんな素振りを見せたくないと誤魔化すように話し掛けてきた。
「それじゃあ」
気まずさに耐えきれず立ち去ろうとしたルルーシュの腕を咄嗟に掴む。
「待って…!」
僕の懺悔と未練を断ち切って欲しい、それができるのは目の前の存在だけ。
「少し話さない?」
思いの他抵抗せずに僕の案にのったルルーシュと、落ち着いた雰囲気のカフェに入る。
おしゃれでかつシンプルにまとめてある店内は時刻が昼前だからかまだ人気はまばらだった。
「誕生日おめでとう」
店員に通された席で、僕は開口一番にそう告げた。まさか言われるとは思っていなかっただろう言葉に、ルルシュは信じられないという顔をする。
「覚えて…いたのか」
「うん」
ずっと忘れられなかった、とは言えなかった。
「それでこれ…貰って欲しいんだ」
「何…?」
怪訝な表情のルルーシュは想定済みなので、気にせず自分の荷物をあさる。
そして僕はテーブルの上にプレゼント用に包装された三つのものを並べておいた。
「………」
「これが一昨年の分で、これが去年の分。あとこれは高校のときの…」
「何を言っているんだお前…」
本当に意味がわからないのか、ただ理解したくないだけなのか。おそらく後者だろうと思いつつそのものたちの名称を告げる。
「誕生日プレゼント」
自分がおかしいことをしている自覚はあったが、毎年会うはずのないルルーシュへ誕生日プレゼントを買っていた。そして毎年持ち歩いていた。
 可能性を信じていないなど強がりなのだ。今日みたいな日がくるのではないかとずっと待っていなければこんなことはしなかっただろう。
「気持ち悪かったら捨てて」
苦笑いしながら言葉を掛ける。ルルーシュは未だそれを見つめたまま固まっていた。想定外のことに弱いから何も対処法が思いつかないのだろう。
「…馬鹿じゃないのか」
やっと聞こえた言葉に表情が緩む。それは僕がルルーシュに毎日のように言われていた言葉だ。
「ずっと渡したくて、ずっと言いたかった」
胸にくすぶり続けていた気持ちをやっと口にすることができる。
「誕生日おめでとう。できれば毎年君に誕生日プレゼントをあげたい」
「それはどういう意味だ?」
先ほどまでとは違いすぐに返事が返ってくる。頭の整理ができてきたみたいだ。もしくはどうでも良くなった、か。
「毎年…というか君に会いたいってことだけど…」
「だからどうして?」
「君が好きだから」
どうして会いたいのか、その質問にすんなりと言えた。それしか知らない明確な答え。
「三年たったぞ」
「三年間ずっと君が好きだった」
「何も連絡なんてよこさなかった」
「僕も臆病者なんだ、察してよ」
後ろ頭をかきながら照れくさそうに言う僕に、「本当に馬鹿だな」と溜め息と共に呆れた声を出すルルーシュ。
「今俺に付き合ってやつがいたらどうすつもりだ?」
「それは考えてなかったなあ…」
ルルーシュに恋人。なんだかしっくりこないけど、いたっておかしくはない。それでもなんだか僕には自惚れがあった。もしルルーシュに僕以外の大事な人がいても、僕が優先順位の最上を獲得しているんじゃなかって。
「でもそれでも君に会いたい。友達でいいから」
「俺がお前を好きにならなくても?」
「いいんだ。君の傍にいれないことが寂しい」
今日会って、話してわかったこと。やっぱりルルーシュが愛しくて、離れがたい。今まで怖くて会えなかったのに、会ってしまえば会えなくなることの方が怖くなった。
「嫌だと言ったら?」
「いいと言ってくれるまで言う、かな」
俺の答えは関係ないじゃないかとルルーシュが一層重く長い息を吐く。
「そ、そんなに嫌…だった?」
さっきの通り自惚れていたからそこまで嫌がられるとは思っていなかった。
「そんなことは言っていないだろう」
「え、じゃあ…」
「だから、その…なんだ。お前、もう一回どうしたいか言え」
「ルルーシュの傍にいたい?」
意図がわからずに先ほど告げた想いをもう一度口にする。
「だから具体的に…というか、どうなりたいかという話で…」
もごもごと言葉を濁すルルーシュに首をかしげる。僕は何を言えば正解なのだろうか。ここで失敗なんてできない。
「えっと…」
「つ、つまり…お前は俺と恋人にな、なりたいのか…?」
「!」
ルルーシュはいつもわかりづらくて、わかりやすい。恥ずかしいと言うのが恥ずかしいというように真っ赤な顔を俯かせるルルーシュに愛しさがます。
 ああ、まだまだ君を好きになる。
「ルルーシュ、僕は君が好き。気持ちを疑われないくらい、毎日愛を注ぐから…僕の恋人になってくれますか?」
「は、恥ずかしいことを言うな馬鹿!」
これ以上ないくらい頬も耳も、首まで赤くなって僕の言葉にかみつく。それが答えのようなものだったけれど、真っ赤な頬を両手で挟み視線をずれないように合わせると再度返事を促した。
「なってくれないの?ルルーシュ」
「しょうがないから、なってやる…」
素直じゃない可愛い答えに、だらしなく表情を崩した僕はたまらなくなって美味しそうな唇に自分のを重ねた。


     *


「そういえば今日はこれからミレイたちが誕生日会を開いてくれるんだ。お前も来い」
「ええ…なんていうか、いいのかな」
ミレイたちというからには高校時代の生徒会メンバーが集まっているのだろう。ルルーシュもルルーシュの友達たちにも気まずくて連絡をあまりとっていなかったから、会うとなると久し振りだ。
「みんなびっくりするよ…」
それに一方的に連絡を途絶えていたから、会いづらい。
「懐かしんでくれるさ」
そういって僕を見たルルーシュの表情は今まで見たことがないくらい美しい笑みだった。

 会えなかった、会わなかった三年間。そんな時間がどうでも良くなるくらい幸せだ。
 そしてそれは当たり前のことではなく、二人の想いがあってこそなのだと今の僕は知っている。
 だからもう大丈夫。
 この繋がれた掌のように未来が重なっていくことを確信した。














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タイトルは大好きな曲から^▽^








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