『結婚式ごっこ』

※ 平和な世界パラレル





閑散とした教会。
先ほど今日めでたく夫婦となる二人が愛を誓った場所にルルーシュとスザクは中央の通路を挟んで座っていた。

「ナナリーが結婚するなんてな」
まだ実感が湧かないというようにルルーシュがぽつりと呟いた。
そんなルルーシュの様子にスザクはくすりと笑う。
「意外だな」
「何がだ?」
「君、絶対泣くと思ったのに」
ナナリーを娘のように溺愛していた彼のことだ、さながら娘を嫁にやる父親のようになるだろうと思っていたのだが。
「人前で泣くと思うか?俺が」
「いや、それは…」
「……結構これでも我慢してるんだ」
困ったようにルルーシュは薄く笑った。
「別に、ありえないことじゃなかったのにな」
盲目で足も不自由だったナナリーは視力こそは戻らなかったものの、足は根気よくリハビリを繰り返したおかげでぎこちなくだが自力で歩けるようになった。
アッシュフォード家の力添えもあり高校・大学と順調に進学することができ、またその大学で出会った人が結婚まで結びついた相手だという。
その彼はナナリーに献身的に寄り添い、過保護に扱うだけでなく相手を尊重して動くことのできる器量がある好青年だった。
結婚に最初は反対していたルルーシュだったが、ナナリーの幸せそうな表情と紳士的な相手の態度にとうとう折れ今日に至る。
「でも、これでやっと僕も君に言える」
そういうとスザクは彼の手をとって立たせると正面で跪いた。
「?スザ…」
困惑しているルルーシュの紫水晶のように輝く瞳を真っ直ぐ見つめ、ふ、と息を吐く。
「僕、枢木スザクはルルーシュ・ランペルージを一生愛し貫くことを誓います」

そっと彼の手をとってスザクは先ほどここで見た結婚式のように誓いの言葉をたてた。

「ずっと、僕のそばにいてくれますか?」

一瞬何を言われているのか把握できずに瞳を見開くとルルーシュは暫く固まったままだったが、理解した途端真っ赤になって俯いた。
「返事は?ルルーシュ」
スザクは瞳で陰になってしまったルルーシュのそれに向けて問おうとすると目の前の黒髪が急に小刻みに震えだした。
「……泣いているの?」
「っるさい!」
お前が…とかこれは涙じゃない…だとかわかりやすい言い訳をしているルルーシュに愛しさが込み上げる。
俯いて泣いた瞳を見せまいとするその頬を、優しく両手で包みこみ顔を合わせた。
それでも恥ずかしいのかルルーシュは視線を逸らす。
そんな初心な仕草がまた、魅力的に映ることをルルーシュは知らない。
素直じゃない仕草にクスリと微笑むと優しく囁いた。
「返事は?」
聞かずともその反応で答えはわかってはいるものの、彼の口から言わせようとスザクは返事を促す。
これは『誓う』ことに意味があるのだから。
「っわかってるだろ!」
「わからないよ。言って、ルルーシュ。一生、僕のそばにいてくれる?」
頬にこぼれた滴をすくう様に唇を寄せながら甘く言い寄るスザクにぴくりと身体が揺れる。
恥ずかしさに肩を震わせながらルルーシュはしつこいスザクの問いかけに観念したのか、頬は赤いままに言い返す。
「・・・ああ」
「ちゃんと言葉にして」
まだ足りないのか、と一瞬頭に血が上り、顔を上げ睨むと真剣なスザクの瞳とぶつかった。
ルルーシュは急に納得したように真顔になるとさっきまでの恥じらいはどこへいったのか、スザクを真っ直ぐに見据え応えた。
これはただの確かめ合いではないのだ―そう感じとって。

「ルルーシュ・ランペルージは枢木スザクを一生愛し貫くことを誓います」

それを聞いたスザクは自分で言わせたにも関わらず一瞬驚いた顔をしたが、想いが伝わったことがわかるとすぐに蕩けるような笑をつくり、ありがとう、とルルーシュを抱きしめた。
ルルーシュもその腕に応え、スザクの背にそっと手を添える。
その暖かな体温に二人で笑い合うとどちらからともなく唇を重ねた。

病めるときも、健やかなるときも―…

これは『誓い』

周りから見ればただの結婚式を真似た二人だけの”ごっこ”だけど

僕たちのこれからには大切な、大切な言葉だった。




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