「結婚しよう」
その言葉に目の前のアメジストがぐにゃりと歪んだ。





 ハロー、ハッピー、ハロー







ルルーシュと僕、スザクが付き合い始めて三年。
幼馴染みだった僕らが高校が終わるころに想いを吐露し合って関係が変化し、それに戸惑いながらそれでいて必然的に大人の階段を登って来た。
だからルルーシュに子供ができたんだと言われた時は驚きはしたが、いつかはくることだしとそれほど動揺はしていない。
僕としては予定より早くなってしまったと思いはしたけど、そんなことはもうどうでもいい。
これでルルーシュと法律的に結ばれるかと思うと嬉しくてしょうがなかった。
幼いころから思っていた、「ルルーシュをお嫁さんにする」夢が叶うときがきたと。 そんな浮かれた僕は、聞こえてきた言葉に耳を疑うしかなかった。

「嫌だ」

ふるふると怯えるように首を振るルルーシュは、そう言った途端大量の涙を流し始めたのだ。
「え」
目の前の出来事に僕は目を見開いた。
口も開いたまま塞がらず、言葉も出てこない。
「…どうして嫌なの?」
泣きながら「嫌だ」としか言わないルルーシュに、意を振り絞って尋ねる。
泣くほど僕との結婚が嫌なのだろうか。
ルルーシュの性格から考えて軽い気持ちで付き合ったりはしないとは思う。 だけど、結婚が嫌っていうのはそこまで本気じゃなかったってことなのだろうか。 子供をおろしたいとか言われたらどうしよう。
「ルルーシュ…?」
「………」
僕の問い掛けにルルーシュは答えあぐねている様子だった。
もし、生みたくない以外の理由があれとしたら。いや生みたくないのだとしても理由は聞かなくてはならない。 それにルルーシュが教えてくれる気が少しでもあるならば聞きださねば。
「教えてルルーシュ。じゃないと納得できないよ」
焦る気持ちを必死で落ち着かせて真剣にルルーシュを見つめる。
目の前の華奢で頼りない肩に手を置くと、びくりと反応されたが振り払われることはなかった。
「ルルーシュ…」
「…っ…」
辛抱強く黙って続きを促す。そうすると弱弱しくだがルルーシュが口を開いた。
「…だって、スザクは…」
「僕は…?」
ようやく開いた口から発せられる言葉に耳を傾ける。ここで選択肢は間違えられない。
「その…俺が妊娠なんてしなかったらそんなこと言わなかっただろ?」
「え?」
「だから、俺が妊娠したから…そうじゃなかったらスザクは結婚なんて言わないだろ?だから…」
「………」
愕然として、手も口も動けない。しかし弁解しなければと回らない頭を必死に振って言葉を絞り出す。
「ルルーシュ、確かに妊娠がきっかけで思いを固めたのは確かだけど、ルルーシュと結婚したいって思ってたよ」
「そんなことは…」
「なんとでも言えるって?」
こくりと頷かれると何とも言えなくなった。 なんという誤解だろう。僕が妊娠させた責任だけで結婚しようと言ったのだと思われているなんて心外だ。
「ルルーシュ、僕の母さんが離婚して家を出て行ったの知ってるよね」
突然話し始めた僕を不思議に眺め、しかしこくりと頷いてくれるルルーシュ。
「僕はまだ小さかったけど、嫌だったよ。僕は捨てられたと思ったからすごく悲しかった」
それから『親なんて』と自分の心が病んだ話を淡々と続ける僕に、まるで自分のことのように悲しげに伏せられた瞳。
…そんな、他人に優しい君だから僕は…。
「だけどルルーシュに出会って好きになって、ずっと一緒にいたいなって思った」
君がいたから僕は生きて来られたのだと、知って欲しい。
そしてこれからも、君がいなければ生きていけない。
「ルルーシュが僕の光だった」
膝の上で震えていた目の前の小さな手を自分のもので包み込む。 こうやっていつまでも、繋がっていたいと伝わるだろうか。
「だから君と結ばれて、手をつないで、キスして、触れ合って… その度に今死んでもいいって思えるくらい嬉しかったよ。今更君と離れるなんてできない。…君は違うの?」
今こそ首を振ってくれ、と僕の気持ちが届いたのかそんな祈りは関係なかったのか、 ルルーシュはまた眉を八の字にして首を振った。
「違わ、ない」
その返事に自然ににっこりと微笑む。
ルルーシュと僕と、まだ見えぬ子供、僕たちは絶対に幸せになれる。はっきりと未来像を思い描いてそう思った。
「ね、ルルーシュ。三人で幸せになろうよ」
もう拒否されないのを前提にルルーシュのお腹を優しく撫でる。
ここに僕らの愛の結晶がいるんだと思うと泣きそうになった。
「スザク…」
ルルーシュが僕を見た。視線が混ざり合う。
「二人でも幸せだけど、ね。三人の方がもっと幸せが増えるよ!」
優しく、触れるだけの口付けをすると、躊躇いがちなルルーシュの腕が僕の背中に回った。
細い指がきゅ、とシャツを掴むのを感じて微笑む。
「ね、結婚してくれる?」
「…幸せにしろよ」
いつもの憎まれ口が出たことに安心して腕に力を込める。
この腕の中の存在がいれば僕はどこまでも強くなれるし、なんだってできる気がした。
「もちろん!ルルーシュを幸せにできるのは僕だけだよ」
不安になる度に教えてあげる。 僕は君を幸せにできるし、僕の幸せは君がいないと成り立たないんだと。










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